1990 年 43 巻 4 号 p. 613-620
回盲部放線菌症の1例を経験したので報告する.患者は55歳, 女性.主訴は右下腹部痛.回盲部腫瘤性病変の術前診断にて開腹, 腫瘤は回盲部外側から腹壁にかけて存在し, 横行結腸および大網と癒着性に一塊となっていた.右半結腸切除術を施行.腫瘤は径70mmx60mm大, 病理組織学的に菌塊を証明し放線菌症と診断, 術後Penicillinの大量療法をおこなった.また本邦における回盲部放線菌症37例を集計し考察を加えた.術前に正診された症例はなく, 全例術後菌塊の証明により診断されていた。画像診断上, 特有な所見ははなく腸管外性に増大するため粘膜下腫瘍像を示すにすぎなかった.治療上, 病変部切除およびpenicillinを始めとする抗生物質の十分な長期投与が必要と考えられた.近年, 稀な疾患とはなったが, 回盲部病変に遭遇した場合, 本疾患も念頭におくべきであると考えられる.