水文・水資源学会誌
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原著論文
長期にわたる森林放置と植生変化が年蒸発散量に及ぼす影響
谷 誠細田 育広
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2012 年 25 巻 2 号 p. 71-88

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抄録

 岡山県にある竜ノ口山森林理水試験地の69年(1937~2005年)にわたるふたつの小流域の降水と流出のデータを用いて,森林放置と植生変化の年蒸発散量に及ぼす影響を評価した.毎年の水収支には貯留量が影響を及ぼすので,年末の基底流出量がほぼ等しい期間を選び,その期間の損失を年平均蒸発散量とみなした.1947年以降植生が放置されて広葉樹林が成長してきた流域では,年蒸発散量は,平均気温によって増減したが,植生成長によって増加する傾向や,温暖化傾向のある1991~2005年では,蒸発散量の増加が拡大する傾向がみられた.毎年の年損失量は,森林の期間では,年末の基底流出量と相関があったが,森林未回復の期間では,相関が認められなかった.これは,乾燥年でさえ蒸発散があまり抑制されずに持続する森林の特徴を示すものである.また,植生がクロマツ林であった期間は広葉樹林であった期間よりも年損失量が小さかったのであるが,基準流域との損失量の比較,月流出量の比較を行った結果,マツ林は広葉樹林よりも,年蒸発散量,冬季の遮断蒸発量,夏季の蒸散量がともに大きいと推定された.

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© 2012 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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