2013 年 38 巻 2 号 p. 356-360
症例は53歳男性.2008年9月頃に左頸部腫瘤を自覚し翌年1月に当院耳鼻科に紹介された.
MRI上左舌扁桃の腫大と左頸部に多数のリンパ節腫大を認め,生検で扁平上皮癌との結果から中咽頭癌(T1-2,N2b,M0,Stage Ⅳ)との診断で化学療法後に左頸部郭清術を施行した.術後に放射線化学療法を1クール施行後外来経過観察されていた.術後11カ月後の画像検査上肝転移を疑う所見があり化学療法を施行したところ転移巣は一旦縮小したが,その後再度増大傾向に転じた.PET-CTでは他臓器に遠隔転移は確認しえず,患者の強い希望を踏まえて肝内側区域切除+S8部分切除術を施行した.病理所見では扁平上皮癌の肝転移として矛盾しないとの結果であった.中咽頭癌の頻度は低く,肝転移例の報告は稀である.本症例のように,化学療法の効果が乏しい場合や腫瘍の遺残なく切除可能な例においては,手術も治療の選択肢となりえると考えられた.