木材保存
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研究論文
褐色腐朽菌オオウズラタケが放散する揮発性有機化合物の分析手法の検討
小沼 ルミ水越 厚史瓦田 研介吉田 誠
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2015 年 41 巻 3 号 p. 108-118

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抄録

木材腐朽菌が放散する揮発性有機化合物(MVOC)は壁紙などを通過して壁内から室内へと拡散するため,これをトレーサーとした腐朽診断が開発されれば,床下や壁の内部など住宅の隠れた部位で進行する木材腐朽を非破壊で検知できる優れた腐朽診断技術となることが期待される。そこでMVOCをトレーサーとした腐朽診断技術を開発するための第一段階として,褐色腐朽菌オオウズラタケをモデルとして,本菌が放散するMVOCを3種類の分析装置(加熱脱着GC/MS,プロトン移動反応(PTR)-MSおよびヘッドスペース固相マイクロ抽出(HS-SPME)-GC/MS)によって分析し,木材腐朽菌が放散するMVOCを分析するために適した手法を検討することを試みた。オオウズラタケをPDAで培養し,加熱脱着GC/MSによって分析したところ,26種ものMVOCが特定された。これらのうちの7種の主要化合物(methyl isobutyrate,2,5-dimethylfuran,1-octene,methyl tiglate,methyl 2-furoate,3-octanone,および methyl benzoate)をPTR-MS法により分析した結果,それぞれのMVOCは,その種類によって放散パターンが異なることが明らかとなった。また,HS-SPME-GC/MS分析によって,少量の空気サンプルからのMVOC検出を試みたところ,加熱脱着GC/MSと比較すると検出可能な成分は限られるものの,比較的簡便に7種のMVOCを検出することができた。本研究により得られた情報は,実際に木材中で生育する木材腐朽菌が生産するMVOCを測定する際の技術的基盤となるものである。

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© 2015 公益社団法人 日本木材保存協会
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