聖マリアンナ医科大学雑誌
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原著
Doxycyclin誘導性ERα陽性BRCA1枯渇ヒト乳腺細胞の樹立
黒田 貴子岡田 麻衣子津川 浩一郎太田 智彦
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キーワード: BRCA1, ERα, doxycyclin, shRNA, tet-on, tet-off
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2015 年 43 巻 3 号 p. 151-162

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抄録

BRCA1遺伝子の生殖細胞系列変異は家族性乳癌および卵巣癌の主要因の一つである。その臓器特異的な発癌機序は解明されていないものの,癌発生母地の組織学的知見からエストロゲンレセプターα (ERα) が何らかの役割を果たすと考えられている。このため発癌における両因子の関連性解明には,正常な二倍体細胞を用いてBRCA1機能不全におけるERαの影響を解析することが重要である。しかしながら株化されたERα陽性二倍体細胞は存在しない。そこで,本研究では解析に適したモデル細胞株として,遺伝子工学的手法を用いたERα陽性BRCA1枯渇のヒト乳腺細胞の樹立を行った。
まずERα陰性の正常乳腺細胞株であるMCF10Aを用いて,doxycyclin (Dox) 誘導性BRCA1枯渇細胞を作成した。BRCA1に対するshRNA配列をエントリーベクターにクローニングし,Gateway法にてCS-RfA-ETBsd-shBRCA1レンチウィルスベクターを作成した。Lenti-X 293T細胞より調整したレンチウィルスをMCF10A細胞に感染後,Blasticidinで選択してMCF10A-Dox-shBRCA1細胞株を樹立した。同様にして,CSIV-TRE-Rfa-Ubc-puro-ERα由来レンチウィルスを作成し,Puromycinの選択下でDox誘導性にERαを発現するMCF10A-Dox-ERα細胞を樹立した。さらにMCF10A-Dox-ERα細胞にCS-RfA-ETBsd-shBRCA1由来レンチウイルスを感染後,BlasticidinとPuromycinの両抗生剤選択下でMCF10A-Dox-ERα-shBRCA1細胞を樹立した。MCF10A-Dox-ERα-shBRCA1細胞においてDox 添加によりBRCA1の発現が低下すると同時にERαが発現することを確認した。
最後に細胞増殖能を指標として,BRCA1枯渇時におけるERαの影響を検討した。興味深いことに,BRCA1正常発現細胞ではERαの発現は細胞増殖に影響を与えないのに対して,BRCA1枯渇細胞ではERα発現により細胞増殖の著しい低下が観察された。
以上,Doxで誘導可能なERα陽性BRCA1枯渇ヒト乳腺細胞を樹立した。今後,BRCA1機能不全を背景としたERαによる遺伝子不安定性への影響を解析するための有用なツールになると思われる。

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© 2015 聖マリアンナ医科大学医学会
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