日本歯科保存学雑誌
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症例報告
根分岐部病変を伴う歯内-歯周疾患の一症例
松﨑 英津子米田 雅裕廣藤 卓雄二階堂 美咲中山 英明松本 典祥畠山 純子水上 正彦松本 和磨稲永 晃子西崎 竜司赤尾 瑛一泉 利雄阿南 壽
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2016 年 59 巻 1 号 p. 124-131

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抄録

 目的 : 根分岐部病変を伴う歯内-歯周疾患は, 日常の臨床で比較的よく遭遇する疾患である. 本疾患は歯内・歯周領域の多様な要因で発症するが, 診断を誤ると原因因子が長期に残存し, 良好な予後を得ることが困難となる. 今回, 歯科治療に対して極度の不安感を訴えるうつ病患者の根分岐部病変を伴う歯内-歯周疾患に遭遇し, 根管内嫌気性菌培養試験を併用した感染根管治療を施すことにより, 破壊された根分岐部の骨組織は良好な治癒を示したため, その症例と治療経過について報告する.
 症例 : 患者 : 37歳, 女性. 主訴 : 下顎右側第二大臼歯の咬合痛および歯肉腫脹.
 全身既往歴 : うつ病, 不眠症.
 現病歴 : 2008年10月, 47の強い咬合痛のため近医を受診したところ, 47の根尖病変を指摘されたが, 急性炎症時は処置できないという説明を受け, 処置は施されなかった. その後痛みはやや減少したが, 2009年1月, 前医に47の歯肉腫脹を指摘され, 切開・排膿処置を受けた. その際, 47の分割あるいは抜歯の提案を受け, 同年2月9日, 47の精査・加療を希望し, 福岡歯科大学医科歯科総合病院を受診した.
 臨床所見 : 47は自発痛 (−), 打診痛 (+), 頰側歯肉腫脹 (+), 動揺 (−), 根尖部圧痛 (+), 瘻孔 (−). 頰側中央部にのみ6mmの歯周ポケットを認め, 根分岐部病変はLindhe & Nymanの分類で頰側から1度.
 診断 : 47慢性化膿性根尖性歯周炎, 歯内-歯周疾患Ⅰ型病変.
 治療経過 : 心療内科での治療により心的状態の改善は認められたが, 根管内の細菌感染に強い不安感を訴えたため, 根管内嫌気性菌培養試験を併用した感染根管治療を施した. 初回培養試験時, 根管内からは多数の嫌気性菌のコロニーが観察された. 数回の根管治療後, 歯周ポケットは3mm以下となり付着の回復が窺われた. また, 臨床症状は認められず, 根管からの細菌のコロニーもほとんど観察されなくなった. 初診から約3カ月後, 側方加圧根管充塡が施された. 根管充塡8カ月後, 47に臨床症状は認められず, エックス線上で歯根周囲の透過像の消失および骨組織の著明な回復が認められたため, 臨床的に経過良好と判断し全部鋳造冠を装着した. 現在まで予後良好に経過している.
 結論 : 歯内-歯周疾患の治療において, 的確な検査および診断の重要性が示唆された. また, 心的状態が不安定な患者のQOLの向上に歯科的貢献を果たすことができたと考えられた.

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