日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
欧州連合における平均寿命,健康寿命と主観的健康感について
長谷川 卓志
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2014 年 51 巻 2 号 p. 144-150

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抄録

目的:近年,地域健康づくりの中では,平均寿命のみならず健康寿命の延伸が議論されるようになってきている.一般に寿命は,生物学的な健康度のみならず社会経済的指標とその格差,主観的健康感により規定されることが報告されているが,平均寿命,健康寿命それぞれの指標がどのような要因により支えられているものか,詳細な研究は少ない.本研究では,ヨーロッパの諸国を例にとり,欧州連合から公表されている健康,社会経済指標など各種統計資料を統計的に解析し,社会経済状態,主観的健康感が平均寿命,健康寿命に対していかなる関与をもたらすかについて検討した.方法:2010年前後に欧州連合27カ国において公表された統計データを用いた.男女それぞれについて平均寿命または健康寿命を従属変数,主観的健康感,悪性腫瘍年齢調整死亡率,自殺死亡率,ジニ係数,国内総生産(GDP),を独立変数とするステップワイズ法による重回帰分析を行った.結果:男性の平均寿命は,悪性腫瘍により有意に低下した(β=-0.814,p=0.001).決定係数は0.652であった.男性の健康寿命は,主観的健康感が良好な場合,有意に延伸した(β=0.759,p=0.001).決定係数は0.559であった.一方の女性では平均寿命は悪性腫瘍により短縮し(β=-0.470,p=0.004),決定係数は,0.618であった.女性の健康寿命では,主観的健康感により有意に延伸した(β=0.605,p=0.001).決定係数は0.341であった.結論:男女とも平均寿命では,悪性腫瘍,健康寿命では主観的健康感と有意な関連が認められた.平均寿命と健康寿命の規定される背景は異なっており,健康寿命の延伸には主観的健康感が重要な役割を演じていることが明らかとなった.

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© 2014 一般社団法人 日本老年医学会
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