2013 年 53 巻 6 号 p. 771-777
背景.多形癌は1999年のWHOによる肺癌の組織学的再分類に伴い,新たに提唱された肺癌の組織型の1つである.通常非小細胞肺癌として治療されるが,効果は乏しく,予後は不良とされている.一方,口蓋扁桃への転移性腫瘍は非常に稀で,予後不良因子と考えられている.我々は口蓋扁桃へ転移し,化学放射線治療後にS-1を投与したところ,著効した多形癌を経験したので報告する.症例.63歳男性.検診で左肺の異常陰影を指摘され前医を受診,経皮針生検で非小細胞肺癌と診断され,手術目的に当院へ紹介となった.左肺上葉切除術を施行し,多形癌pT2N0M0 stage IBと診断,術後補助化学療法としてuracil-tegafur(UFT)を処方していたが,3カ月で口蓋扁桃へ転移した.carboplatin+paclitaxelによる化学療法および放射線治療を併用したが腫瘍縮小効果は得られず,その後S-1を投与したところ7カ月後には転移巣は消失した.現在S-1開始後4年6カ月経過しているが,無増悪生存中である.結論.口蓋扁桃へ転移した多形癌に対し,化学放射線治療後にS-1を投与し,著効した症例を経験した.今後,多形癌に対するS-1の有効性を検討する意義がある.