日本救急医学会雑誌
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症例報告
肩関節前方脱臼に伴う肩甲下動脈損傷に対してcovered stent留置術が奏功した1例
矢田 憲孝廣田 哲也菊田 正太宇佐美 哲郎山田 勝之
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2014 年 25 巻 4 号 p. 179-185

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抄録

症例は85歳の男性。自転車で転倒し,左肩関節痛を主訴に救急搬送された。来院時,左腋窩部は腫脹しており,収縮期血圧は90mmHg台とやや低値であった。X線検査にて左肩関節前方脱臼と腋窩部周囲の腫脹を認め,徒手整復後に収縮期血圧が70mmHg台にさらに低下し,造影CTを施行したところ左腋窩動脈周囲に血管外漏出像がみられた。血管造影検査にて左肩甲下動脈起始部の損傷と診断し得たが,高齢かつ低心肺機能で外科的止血術は困難であった。また上肢血流を温存しての動脈塞栓術も困難であり,肩甲下動脈起始部を含めた腋窩動脈にpolytetrafluoroethylene (PTFE)-covered stent(Niti-S ComVi 胆管用ステント)を留置した。その後,アスピリン,クロピドグレルを開始し,第16病日の血管造影検査でstentの開存を確認し,第25病日に退院した。 受傷5か月後の血管超音波検査にてstent遠位端の収縮期最高血量速度の上昇を認め,狭窄が疑われた。血管造影検査を行いstent内の50%狭窄を確認し,経皮的血管形成術を施行した。その後,血管超音波検査による定期的な観察を継続しているが流速の上昇はなく,受傷18か月後の血管造影検査でも25%狭窄を認めるのみで,日常生活において左上肢の運動に支障なく経過している。肩関節脱臼に伴う動脈損傷は稀な合併症であるが,致死的な経過もとりうる。外科的治療が困難な場合には,緊急止血を目的としたcovered stent留置術が奏効することがある。またstent留置後の内腔評価に関して,血管造影検査に加え,補助診断として血管超音波検査を組み合わせることが有用と考えられる。

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© 2014 日本救急医学会
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