日本救急医学会雑誌
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症例報告
急性心不全で発症し,多臓器不全を呈した褐色細胞腫クリーゼの1症例
松吉 健夫今村 剛朗佐々木 庸郎山口 和将小島 直樹稲川 博司岡田 保誠
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2014 年 25 巻 7 号 p. 313-318

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抄録

急性心不全で発症し,多臓器不全を呈した褐色細胞腫クリーゼの症例を経験した。症例は34歳の女性。腹痛を主訴に前医に救急搬送された。診察中に低酸素血症が進行したため気管挿管され,腹部造影CTで両側副腎に巨大な腫瘍を認めたため褐色細胞腫クリーゼ疑いにて当院転送となった。来院時は気管挿管下に鎮静中であったが,高血圧,頻脈が持続しており,血液検査では肝機能障害,急性腎障害を認めた。なおカテコラミン3分画は正常上限の1,000倍以上の高値であった。α遮断薬に続けてβ遮断薬,Ca拮抗薬投与で降圧をはかった。第3病日には肺うっ血は軽快し,来院当初みられた肝機能も改善した。急性腎障害は遷延し,第9病日にまでに計3回の血液透析を要したものの,その後軽快した。第8病日に人工呼吸器を離脱し,大量の降圧薬服用下に循環動態は安定した。その後,他院にて両側副腎の腫瘍を摘出し,遺伝子検査にて多発性内分泌腺腫症type 2Aと診断された。うっ血性心不全を含む重症患者の背景疾患として褐色細胞腫を診断することは困難だが,禁忌薬剤や特徴的な治療など,疾患特異的な側面があるため,鑑別診断として想起すべきである。また本症例は急性期のみならず,集中治療管理を終えた後も大量の降圧薬を要しており,腫瘍から大量のカテコラミンが持続的に放出されていた可能性が示唆される。このような症例において,外科的手術のタイミングは議論の余地があるところだが,本症例では内科的集中治療管理により多臓器不全を離脱した状態で根治的治療につなげることができた。

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