日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
症例報告
Stanford A 型急性大動脈解離に対する上行大動脈置換術後に不全対麻痺を発症した1例
逆井 佳永大坂 基男小石沢 正
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 41 巻 3 号 p. 117-120

詳細
抄録

胸部下行および胸腹部大動脈術後に生ずる対麻痺は合併症としてしばしば報告されているが,上行大動脈術後に生じる対麻痺は稀でありその報告例も非常に少ない.われわれは,Stanford A型急性大動脈解離に対する上行大動脈置換術後に生じた不全対麻痺の1例を経験したので報告する.患者は64歳男性で,Stanford A型急性大動脈解離・早期血栓閉塞型に対し保存的加療(安静および強力降圧療法)を施行後8日目に,上行大動脈偽腔への血流再開および瘤径拡大を認めたため,緊急上行大動脈置換術(超低体温循環停止,脳分離体外循環法併用)を施行した.術後4日目の人工呼吸器離脱後に不全対麻痺,膀胱直腸障害に気付かれ,脊髄MRIでは胸腰髄に梗塞の所見を認めた.リハビリテーションの継続により,術後約5カ月で神経学的に完全回復を認めた.これまでStanford A型急性大動脈解離術後に生じた対麻痺の明らかな原因は指摘されていない.本症例における不全対麻痺の原因はMRI所見や臨床経過から推測して,60分を超える循環停止による脊髄循環不全,脳分離体外循環による前脊髄動脈塞栓,上行大動脈entryの閉鎖に伴う下行大動脈偽腔内圧の変化による肋間動脈閉塞などが原因としてあげられる.上行大動脈術後の対麻痺は非常に稀であるが,可能な限りの予防策をとり手術を行う必要がある.

著者関連情報
© 2012 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top