2012 年 41 巻 6 号 p. 299-303
症例は69歳,女性.意識障害と失語で発症し,多発性脳梗塞と診断された.心原性塞栓症が疑われたが,洞調律で心房細動発作の既往はなかった.心エコー検査で僧帽弁の後尖弁輪を中心とした粗で高度な石灰化塊があり,その間から軽度の僧帽弁逆流がみられた.左心腔内の血栓や腫瘍,僧帽弁狭窄や左室壁運動異常を認めなかった.厳重な抗凝固療法中に再び多発性脳梗塞を併発した.僧帽弁輪石灰化が塞栓源である可能性が高いと判断し,それを可及的に取り除き,自己心膜で覆う手術を計画した.術中所見からはP2-P3間の僧帽弁輪石灰化が左房・左室間でトンネル状に断裂し,心腔内に露出した粗な石灰化面が心拍動で擦れ合うことにより,容易に石灰化粒が飛散し,再発性,多発性脳塞栓を発症したと思われた.そこで石灰化を可及的に僧帽弁とともに切除・除去し,自己心膜を用いて僧帽弁後尖弁輪欠損部を補強し,僧帽弁置換術を行った.現在,術後2年6カ月を経過するが脳梗塞の再発は認めない.僧帽弁輪石灰化が脳塞栓源となる最初の報告例である.