2012 年 41 巻 6 号 p. 316-319
Loeys-Dietz症候群は,大動脈瘤や解離などの血管系症状と特異的な骨格系所見に特徴づけられる常染色体優性遺伝の疾患である.Marfan症候群に比べると大動脈径が小さくても解離を発症しやすく,大動脈瘤に対しては早期の積極的介入が推奨されている.今回われわれは,急性A型大動脈解離術後に遠位弓部大動脈の急速増大をきたしたLoeys-Dietz症候群の1例を経験したので報告する.症例は45歳,男性.33歳時に本院にて大動脈弁置換術を受けた既往がある.Stanford A型急性大動脈解離の診断でエントリー切除を含む上行大動脈置換術を施行し経過良好であったが,2週後のCT検査で末梢側吻合部以遠の解離腔残存と遠位弓部大動脈の急速な増大を認めた.このため術後3週目にエレファントトランク法を用いて全弓部置換術を施行した.本症例は前回手術時および今回入院時にLoeys-Dietz症候群との認識はまったくなかったが,緊急手術後に身体的特徴を小児科医から指摘され初めて疑いを持った.本人および家族の承諾を得て施行した遺伝子診断ではTGFBR2遺伝子変異が認められ,血管系合併症および特徴的な骨格系所見からLoeys-Dietz症候群と診断した.