日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告
大動脈基部の限局性解離に自己大動脈弁温存手術を施行した1例
坂本 滋清澤 旬坂本 大輔
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2013 年 42 巻 3 号 p. 200-203

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抄録

症例は39歳,男性.仕事中に突然胸背部痛が出現,救急車にて搬送された.来院時,胸背部痛は消失,臨床的には高血圧の所見を認める以外に異常が認められなかった.入院4日後,心エコーで心嚢液貯留とARが軽度あるとの診断で,再度CT検査が施行された.大動脈基部は約3 cmと拡大していたが,緊急手術の依頼はなかった.約3週間後のMD-CTの所見では大動脈基部径は拡大(約5cm),外科に転科された.また,Marfan症候群の身体的特徴は認められなかった.手術は胸骨正中切開で開胸,心膜をあけると約300 mlの血性心嚢液を認めた.心基部は約7 cmに拡大,外見はAAEの形態を呈していた.心停止後,心基部を切開すると,解離は左右冠動脈口近くまで及んでいたが,冠動脈入口部には波及していなかった.無冠尖のバルサルバ洞上部が嚢状に拡大,大動脈弁尖のcoaptationには問題なかった.Woven Dacron 28 mmの人工血管でグラフトを舌状にトリミングしValsalva洞の形態を保ちながら弁輪部に確実に針を掛け,外側を薄手のフェルトで補強し,出血を回避するために縫合部位の人工血管にBioGlue® を少量塗布した.また,ARの程度を評価するためにValsalva洞を形成した人工血管内腔に生理食塩水を満たし,ARが認められないことを確認した.左右冠動脈再建はCarrel patch法で再建した.術後経過は順調で,術後3週間で退院した.Marfan症候群のような結合組織異常を伴わなく,また,自己大動脈弁に変化のない大動脈解離および基部動脈瘤の症例では自己大動脈弁温存手術は積極的に採用できる術式と考えられる.

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