日本心臓血管外科学会雑誌
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原著
心臓血管外科領域における DIC に対するトロンボモジュリン製剤の使用経験
小池 裕之井口 篤志中嶋 博之上部 一彦朝倉 利久森田 耕三神戸 将高橋 研池田 昌弘新浪 博
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2013 年 42 巻 4 号 p. 267-273

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抄録

急性大動脈解離や腹部大動脈瘤破裂,心臓血管外科手術後に生じる播種性血管内凝固症候群(以下DIC)は,感染,敗血症,低心機能や循環不全を伴い,大動脈瘤内や解離腔の血栓とも関連した独特の病態である.遺伝子組換ヒトトロンボモジュリン製剤(TM製剤)がDICに対して臨床使用可能となった.今回,当科で経験した心臓血管外科疾患を有するDIC症例に対するTM製剤の安全性および効果を検討したので,その使用経験を報告する.2010年10月より2012年3月の間にTM製剤を使用した35症例(平均69±11歳)を対象とした.疾患は,胸部大動脈瘤6例,大動脈解離5例,腹部大動瘤6例,弁膜症3例,拡張型心筋症3例,その他3例だった.当科におけるDIC治療のプロトコルは,急性期DIC診断基準でDICと診断された,あるいは血小板とFDPの値でDIC準備状態と診断された場合に開始し,初期の6カ月はガベキサートメシル酸塩を開始,AT III低下症例に関してはAT III投与が検討され,AT III高度低下例,あるいは無効例に対してTM製剤投与を6日間行った.2011年6月以降(後期)はDIC診断早期からTM製剤を投与した.TM製剤投与後28日の生存は27/35(77.1%)であった.生存例においてTM製剤投与中にDICの急性期スコア,FDP,D-Dimer,PT比,フィブリノゲン,血小板数AT III活性値が改善した.死亡例ではこれらの指標に改善がなかった.35症例の使用において,TM製剤の副作用と思われる合併症はなかった.心臓血管外科領域におけるDICに対しても,今回の検討ではTMの安全性が示されたが,有効性に関してはさらに詳細な検討が必要であると考えられた.

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