慢性透析患者における大動脈弁狭窄症に対する外科治療についてはその手術適応,手術時期等に議論の余地があると思われる.1993年1月から2012年9月までの間に当院にて施行された慢性透析患者の大動脈弁狭窄症に対して施行した大動脈弁置換術75症例(単独大動脈弁置換術40例,冠動脈バイパス術を伴う大動脈弁置換術35症例)を対象とし,その遠隔成績および予後因子の検討を行った.患者背景としては,男性53例,女性23例,平均年齢66.7±8.5歳であった.腎不全の原疾患としては,糖尿病性腎症は22例(29.3%),非糖尿病性の腎不全は53例(70.7%)で,平均透析歴は8.1±6.2年(最長26年)であった.遠隔期予後調査(追跡率98.2%,平均観察期間9.9年)の結果としては,手術死亡6.6%で,Kaplan-Meier法による遠隔成績は,1年生存率74.5%,3年生存率42.1%,5年生存率29.9%,10年生存率6.8%であった.予後因子の検討では,術前弁口面積0.9 cm2 未満であること,術前血清コリンエステラーゼ値が200 IU/l未満であることが統計学的に有意に予後不良な因子(p<0.05)であることが明らかとなった.慢性透析患者の大動脈弁狭窄症に対する外科治療については,その遠隔成績は非透析患者に比し不良であった.予後因子の検討により,早期の外科的介入により予後改善の可能性が示唆され,術前の耐術能の評価のひとつとして血清コリンエステラーゼ値が有用であると思われる.