日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
症例報告
気管切開を持つ高度肥満患者への Thoracoabdominal Spiral Incision による冠動脈バイパス手術
日尾野 誠田嶋 一喜高味 良行内田 健一郎藤井 恵岡田 典隆加藤 亙酒井 善正
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 42 巻 1 号 p. 54-58

詳細
抄録

症例は60歳,男性.2型糖尿病,高度肥満(身長170 cm,体重160 kg,BMI 55)の既往があり,右冠動脈(RCA)の急性血栓閉塞による急性下壁心筋梗塞で入院した.同時に三枝病変を認め,内科的管理を行った後に冠動脈バイパス手術(CABG)が予定された.心不全,肺炎のため気管内挿管され人工呼吸管理となったが,肥満低換気症候群のため人工呼吸器離脱が困難となり,気管切開施行された.全身状態の改善が得られた,1年2カ月の入院治療後に手術施行となった.体重は107.5 kg,BMI 37.2まで改善を得ていた.呼吸器合併症を防ぐため周術期に気管切開管理は継続が必要と考えられたが,気管切開孔による胸骨正中切開創の汚染を回避することと,左前下行枝(LAD),対角枝(D1),後側壁(PL),後下行(PD)領域へのグラフトとしては左内胸動脈(LITA),右胃大網動脈(RGEA)で十分に到達可能なことより,Thoracoabdominal Spiral Incisionを選択した.術後疼痛による呼吸障害を予防するために術前に硬膜外麻酔を留置した.上半身30度程度の右半側臥位にて第4肋間開胸し,LITAを剥離した.腹部正中へ皮膚切開延長して開腹し,RGEAを採取した.LITAをFree GEAとのI CompositeにしてオフポンプにてLAD,D1,14 PL,4 PLと吻合した.無輸血にて手術終了し術後経過良好で縦隔炎合併なく独歩退院となった.本切開法にて確実な気管切開孔からの汚染回避,全長にわたり剥離されたLITAおよびGEAの使用,比較的少ない心脱転で,LAD,左回旋枝(LCx),RCA領域にかけて正中開胸に劣らない良好な視野を得ることができた.

著者関連情報
© 2013 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top