日本心臓血管外科学会雑誌
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原著
85歳以上超高齢者に対する心臓大血管手術の検討
権 重好山田 靖之柴崎 郁子桒田 俊之堀 貴行土屋 豪関 雅浩桐谷 ゆり子加藤 昂福田 宏嗣
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2014 年 43 巻 4 号 p. 170-176

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抄録

[背景]高齢化社会に伴い,心臓大血管手術患者の適応年齢が拡大している.[対象]今回われわれは85歳以上の超高齢者に対する心臓大血管手術を経験し,治療方針の妥当性を検討した.2008年6月から2012年12月までに当センターで施行した心臓大血管手術1,026例中,85歳以上の39例(3.8%)を対象とし,待機手術症例と緊急手術症例を比較検討した.また,84歳以下の対象群と術後経過を比較検討した.平均年齢86.3±1.3歳(85~90歳),男女比10:29,緊急症例19例(46.2%).施行手術は弓部全置換術4例,上行置換術4例,下行置換術1例,大動脈弁置換術(AVR)13例,僧帽弁置換術1例,僧帽弁形成術2例,冠動脈バイパス術(CABG)9例,AVR+CABG 4例,腫瘍摘出術1例であった.手術時間は305.8±113.8分,人工心肺時間は155.6±64.7分,平均ICU滞在日数3.82日,術後平均在院日数41.3日であった.[結果]術後30日死亡は1例(2.6%),入院死亡は6例(12.8%)であった.手術関連死亡は胸部大動脈瘤破裂に対する下行置換術の出血死,AVR後の非閉塞性腸間膜動脈虚血(NOMI)による消化管穿孔の2症例であり,その他は経過中に発症した急性心筋梗塞,肺がん化学療法中に急性大動脈解離を発症し術後脳転移による脳梗塞,胆のう炎による消化管穿孔,タコつぼ型心筋症既往の心不全により失った.緊急手術症例群の術後挿管時間(89.9時間vs. 8.2時間,p=0.006),ICU滞在期間(6.74日vs. 1.05日,p=0.002),術後入院日数(58.9日vs. 27.5日,p=0.049)は待機手術症例群と比べ有意に延長した.高齢者の待機手術症例では,84歳以下の対象者群と比べ,在院死亡率(2.6% vs. 5.0%,p=0.52),術後在院日数(26.7日vs. 27.5日,p=0.54)などの術後経過に有意な差は認めなかった.高齢者の緊急手術症例は,84歳以下の対象群と比べ術後在院日数が有意に延長し(58.9日vs. 39.1日,p=0.03),在院死亡率も高かった(26.3% vs. 10.5%,p=0.004).85歳以上超高齢者の心臓大血管手術は手術成績,術後経過ともにおおむね良好であり,とくに待機手術症例においては若年者と同等な手術成績が見込める.[結語]高齢を理由に手術不適応と判断するのは早計であり,患者のfrailtyや精神状態,病態の深刻性,患者家族の意思を考慮したうえで手術適応を判断すべきである.

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