日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告
動脈スイッチ手術後の大動脈吻合部狭窄
藤本 智子安東 勇介檜山 和宏梶原 隆小江 雅弘深江 宏治
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2014 年 43 巻 2 号 p. 62-66

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抄録

大血管転位症に対する動脈スイッチ手術の合併症として,冠動脈閉塞,肺動脈狭窄,大動脈弁逆流およびバルサルバ洞拡大が知られている.一方,手術手技上の問題がなければ大動脈吻合部に狭窄をきたすことは少なく,大動脈弁上部狭窄の報告は稀である.今回われわれは吸収性縫合糸に対する組織の過増殖のため大動脈弁上部狭窄を生じた症例を経験した.症例は4カ月女児.完全大血管転位症II型に対して生後12日目に動脈スイッチ手術を施行した.新大動脈の再建はpolydioxanone糸(7-0 PDS®)を用いた連続縫合で行った.術後1カ月目の心臓超音波検査で大動脈吻合部に有意な圧較差が出現し,その後も増悪したため術後4カ月目に狭窄解除術を施行した.狭窄部の大動脈壁は全周性に肥厚して内腔に突出しており,これを切除してpolypropylene糸(7-0 Prolene®)による単結節縫合で再吻合した.狭窄部の組織学的所見としては縫合糸を中心とした膠原線維の増生を認めた.吻合部圧較差の経時的上昇と組織学的所見から,吸収性縫合糸に対する組織の過増殖が狭窄の主要因であると推察された.吸収性縫合糸は体内に異物として残存しないという特徴から非常に有用な縫合糸であるが,本症例のように組織の過増殖による吻合部狭窄をきたす可能性がある.吸収性縫合糸の選択は慎重に行うべきであり,完全に吸収されるまでの期間は注意深い経過観察が必要である.

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