日本鳥学会誌
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原著論文
標識個体の遺伝的性判別からみたアマミヤマシギScolopax miraの行動と形態の性差
江田 真毅鳥飼 久裕木村 健一阿部 愼太郎小池 裕子
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2014 年 63 巻 1 号 p. 15-21

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抄録

アマミヤマシギScolopax miraは奄美大島とその属島,および徳之島で繁殖する日本の固有種である.IUCNのレッドリストでは危急種に指定されている.同種の保護対策の検討のうえで,標識個体を性判別することは行動上の性差を明らかにするために重要である.しかし,アマミヤマシギの形態上の性差は知られておらず,形態による性判別基準は確立されていない.そのため,行動上の性差もほとんど分かっていない.本研究では,アマミヤマシギの標識調査時に外部形態を測定するとともに,採取した羽毛からの遺伝的性判別をおこない,形態と行動の性差を検討した.その結果,第一回換羽以後の成鳥の雄は,求愛期から営巣・育雛期の初期(3月と4月)に雌に比べより頻繁に捕獲されていることが示された.雄の求愛行動や雌の抱卵行動との関係が考えられる.また,アマミヤマシギのロードキルが年間で最も多いこの時期に,そのリスクは雄でより高いことが示唆された.幼鳥の標識個体中では繁殖期の後期(5・6月)および幼鳥の分散期(11・12月)で雌が有意に多かった.5・6月に雌が多い原因は不明なものの,11・12月に雌が多い原因は分散にあたって,雄に比べ雌個体が長距離を移動し,結果として道路脇などにも頻繁に出現することの反映かもしれない.奄美大島の成鳥個体について9つの外部計測値を雌雄で比較すると,露出嘴峰長,嘴長,嘴幅,嘴高,全頭長,体重では雌が,尾長では雄が有意に大きかった.これらの外部計測値のデータから線形判別分析による性判別式を作成した結果,奄美大島の成鳥標識個体の約86%が正しく判別された.この判別式は幼鳥の判別には応用できない一方,徳之島の成鳥個体の性判別には有効であることが示唆された.

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© 2014 日本鳥学会
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