日本において,正統的な薬剤疫学研究を実施するための資源はこれまで乏しかった.薬剤疫学研究のための基盤整備につながる重要な一要素として,製薬企業によって実施される市販後の調査をより科学的な薬剤疫学の原理を用いたものとしていくことが挙げられる.2012 年にリスク管理計画(RMP)に関する通知が発出され,ICH の E2E ガイドラインとリスク最小化計画の実装が要求されている.ICH の E2E ガイドラインは薬剤疫学の原理を市販後の調査に用いることを求めたものである.本稿では,SS-MIX 標準化ストレージを用いたレジストリ研究による市販後の調査を,日本において数十年にわたって実施されてきている旧来型の使用成績調査と比較した.使用成績調査は処方の決定が患者を研究に含める決定と区別されていないがゆえに販売促進のための調査として機能する可能性をもっているが,この問題は SS-MIX 標準化ストレージを用いて対象患者を特定することにより避けることが可能である.さらに,標準化ストレージは比較される二つの薬のnew users の特定において強い力を発揮する.データベース研究が将来市販後の調査の一要素となるかもしれないが,主にレコードリンケージの困難さのためにレジストリ研究はデータベース研究を補完するものとして当面,重要であり続けると考えられる.SS-MIX 標準化ストレージを用いるレジストリ研究とデータベース研究両者を促進することが,正統的な薬剤疫学研究の実施に必要な基盤整備につながると考えられる. (薬剤疫学 2013;18(1):41-48)