2013 年 74 巻 7 号 p. 1950-1955
症例は23年前に直腸癌のため腹会陰式直腸切断術を受けた86歳の女性.人工肛門からの出血と上腹部痛にて当院受診.人工肛門に2型の腫瘍を認め腺癌の所見であった.腹部CT検査では,腹直筋に浸潤した腫瘍と左鼠径部に2.0cm大のリンパ節腫大を認めた.以上より腹直筋浸潤を伴った人工肛門部大腸癌,左鼠径リンパ節転移と診断した.腹直筋の一部を合併切除し,人工肛門を含めた結腸部分切除術と左鼠径リンパ節切除術を行った.人工肛門部の癌は4.0cm大で腫瘍の肛門側に隆起性病変を認めた.病理組織学的所見では,組織型は中分化腺癌で鼠径リンパ節転移を認めた.鼠径リンパ節転移をきたす消化器癌の多くは下部直腸癌や肛門管癌で,結腸癌ではまれである.本邦で報告された人工肛門部異時性多発大腸癌症例の臨床像ならびに鼠径リンパ節転移経路について文献的考察をふまえて報告する.