2013 年 74 巻 2 号 p. 544-550
61歳,女性.健診での腹部診察時に気分不良があり,心電図上,狭心症が疑われ救急搬送となった.胸腹部CTにて右乳癌と腹部大動脈左側に腫瘤を認め,腸間膜由来GISTの診断で右乳癌とともに一期的切除の方針となった.右胸筋温存乳房切除術後,開腹し,腫瘍切除操作を開始したところ著明な血圧上昇とVTの出現を認めた.一旦切除を断念した.追加検査により副腎外paragangliomaの診断を得た.後日,再手術を施行した.腹部大動脈左側の後腹膜に長径70mmの腫瘍を認めた.腫瘍に直接触れぬ様に栄養血管を結紮・切離し完全摘出した.術中,明らかな血圧上昇や不整脈の出現を認めなかった.病理組織診断はparagangliomaであった.Paragangliomaにおいて術中に診断されるのは2%程度である.術前にparagangliomaを念頭に置くべきであったと反省される点もあった.さらに術前未診断の術死率は36%との報告もあり,術前にα遮断薬を投与することが極めて重要であり,教訓的な症例として呈示する.