紙パ技協誌
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総説・資料
酢酸セルロースの特徴と新展開
島本 周岡田 静中村 敏和
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2014 年 68 巻 9 号 p. 1018-1024

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抄録

溶媒可溶性の酢酸セルロースは,セルロースをアセチル化し,次いでこれを部分脱アセチル化することで調製され,膜分離,写真フィルム,液晶ディスプレイ,衣料用およびその他繊維として広く使われている。本稿では特に,酢酸セルロースの特異な表面物性に焦点を当て,最近の用途展開を紹介し,また,今後の展開を議論する。
酢酸セルロースの最近の用途展開として浄水用中空糸膜を紹介する。際立った負のゼータ電位を理由として,酢酸セルロース膜は他素材の膜に比べて,河川水懸濁物による膜細孔の目詰まり(ファウリング)に対して高い抵抗性を示し,安定的に高い水質の浄水を提供している。河川水懸濁物は一般的に負に帯電しているので,酢酸セルロース膜との間で反発力が作用すると予想され,これが素材としての酢酸セルロースの訴求点となっている。
巨視的系の相互作用に関するvan Ossらの理論(VCG理論)によれば,酢酸セルロースは一つには,他の汎用高分子化合物に比べて高い電子受容性(ルイス酸性)を有することで特徴付けられる。電子受容性の酢酸セルロースは,電子供与性の金属やカーボン材料と高い親和性を示すことが予想される。リチウムイオン電池などの電極は,金属材料とカーボン材料を結合させることで製造される。このような結合材(バインダー,のり)として酢酸セルロースは優れた特性を発揮することが期待される。
酢酸セルロースとカーボン材料の親和性を検証する一環として,多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含む酢酸セルロースフィルムを調製し,導電率を測定したところ,他の汎用高分子を用いた場合に比べて高い導電性を示した。これは,期待した通り電子受容性―供与性の相互作用により,MWNTが酢酸セルロースマトリクス中で高度に分散していることを意味している。弊社は,このような酢酸セルロースの特徴を踏まえ,新しい用途展開を提案している。従来の溶媒溶解性酢酸セルロースに加え,水溶性酢酸セルロースも準備している。

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