順天堂医学
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原著
ヒト平滑筋ミオシン重鎖の多様性
-血管発生および動脈硬化病変における発現-
相川 眞範
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1994 年 40 巻 2 号 p. 189-199

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抄録

虚血性心疾患の主たる原因となる動脈硬化病変の形成には, 平滑筋細胞の形質変換や増殖が重要な役割を果たしていると言われている. 永井らは先にウサギ平滑筋には少なくとも3種のミオシン重鎖 (SM1・SM2・SMemb) が存在し, その発現様式は平滑筋分化あるいは平滑筋増殖に伴い変化することを示した. SM1はすべての発生段階の血管平滑筋に一貫して発現しており, またSM2は生後の分化した平滑筋にのみ発現し, 実験的動脈硬化病変では消失した. 一方, 非筋型ミオシンのSMembは胎児期平滑筋や増殖平滑筋に強く発現していた. よって, 平滑筋ミオシン重鎖は動脈硬化病変における平滑筋の形質の病理学的マーカーとなりうることが示唆された. そこで本研究においては, 臨床的に重要なヒトの動脈硬化病変における平滑筋形質変換の様式を明らかにすることを目的として3種類のヒト平滑筋ミオシン重鎖のcDNAクローンを単離し, それらの組織発現を検討した. SM1mRNAはすべての発生段階の大動脈で同程度に発現していた. SM2mRNAの発現は胎児期には弱く, 発生にともない増強し, 成人ではSM1と同程度に発現していた. SMemb mRNAは胎児・新生児期に強く発現したのち成長に伴い減弱したが, 高齢者では再び強く発現する傾向がみられた. 各アイソフォームに特異的な抗体を用いた組織学的検討で, SM1は胎児から成人まですべての大動脈と冠動脈の中膜に発現していたが, SM2は胎児期には殆ど陰性であり, 生後の中膜において陽性であった. SMembはウサギの検討と異なり, 胎児平滑筋に特異的な発現様式は示さなかった. 若年症例冠動脈のびまん性内膜厚部位は平滑筋細胞を主体に構成されており, 3種類すべてのミオシン重鎖が発現していたが, 加齢に伴って内膜肥厚が進行すると, 分化した平滑筋にのみ発現するSM2の発現は低下する傾向があり, 平滑筋細胞の形質変換が認められた. 動脈硬化病変においてはSM2のみならずSM1の発現も低下しており, 高度に形質変換した平滑筋の存在が示唆された. このように動脈硬化の発生および進展機序には, 平滑筋形質変換が重要な役割を果たしていると考えられた. ヒト平滑筋ミオシン重鎖は平滑筋細胞形質のマーカーとして有用であり, 動脈硬化病変の形成や進展の分子機構の解明に寄与することが期待される.

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© 1994 順天堂医学会
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