本研究では有歯顎者と上下顎全部床義歯装着者を対象として,実験用口蓋床が[n]持続発音時の下顎位に及ぼす影響について検討するとともに,[n]持続発音時の下顎位(以下,[n]持続発音位)の垂直的顎間関係の記録方法についても併せて検討した.実験1として,20名の有歯顎者を対象に実験用口蓋床が[n]持続発音位に及ぼす影響について検討した.実験2として上下顎全部床義歯装着者15名を対象に実験用口蓋床が[n]持続発音位に及ぼす影響について検討した.実験3として,上下顎全部床義歯装着者5名を対象に[n]持続発音を応用した垂直的顎間関係記録法について検討した.計測には下顎運動測定装置を用いた.
その結果,以下の結論を得た.1.有歯顎者の[n]持続発音時の垂直的開口距離は,コントロール(実験用口蓋床非装着時)と比較して有意差は認められなかった.2.全部床義歯装着者の[n]持続発音時の垂直的開口距離は,コントロールと比較して有意差は認められなかった.3.全部床義歯装着者の[n]持続発音位を応用して垂直顎間距離を決定した場合の垂直的開口距離は正中部で0.8±0.6 mm となり,有歯顎者の値(0.4±0.4 mm)に近似した値を示した.
以上より,[n]持続発音位は垂直顎間距離決定における基準下顎位として有用であることが示された.