2014 年 55 巻 1 号 p. 27-36
小学校4年生「ものの温まり方」単元において, 金属への熱の伝わり方は, 児童にとって科学的な概念を形成しやすい学習事項である。しかし, 水への熱の伝わり方は, 科学的な概念を形成することが困難である。特に, 水の動きと温度変化を同一の実験で理解さることは難しく, 多くの児童は, 動きにのみ着目した「回転モデル」となった。その後, サーモインク液を使い温度変化のみを観察させた。その結果, 既有概念に観察事象を組み入れようとする「様々な概念モデル」が出現した。ただし, 遅延テストでは「回転モデル」に戻った。「回転モデル」は, 印象の強い安定的なモデルと考えられる。一方「様々な概念モデル」は, 既有概念と観察事象との整合がしにくい不安定なモデルと考えられる。そのため, 時間と共に消滅したと推測できる。この点から, 既有概念と観察事象との差異を明らかにする活動の必要性が示唆された。
本実践では, 水への熱の伝わり方に関する表現について, 矢印記述だけでなく, 時系列塗り潰し記述を併用することの必要性が示唆された。また, 簡略化された矢印記述によって, 観察とは異なった概念モデルが形成される例が示された。