山口医学
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症例報告
自然止血していた肝細胞癌破裂に対して腹腔鏡下肝外側区域切除術を施行した1例
河岡 徹深田 武久桑原 太一松隈 聰金子 唯原田 俊夫平木 桜夫福田 進太郎
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2013 年 62 巻 1 号 p. 61-66

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抄録

自然止血していた肝細胞癌破裂症例に対して腹腔鏡下肝外側区域切除術を施行した稀な1例を経験したので報告する. 症例は61歳女性.主訴は軽度の圧痛を伴う上腹部腫瘤.CT, MRI, 超音波検査にてS3に約5cm大,肝表突出型で増大傾向を伴い,早期相で不均一に造影される単発性の肝腫瘍を認めた.肝機能は異常なく,HBs-Ag(-),HCV-Ab(-)であった.術直前のAFPは45071ng/ml, PIVKA-Ⅱは8420mAU/mlと著明高値であった.以上より肝細胞癌を疑い,腹腔鏡下肝外側区域切除術を行うこととした.気腹後,腹腔内を観察したが,少量の血性腹水ならびに小網と膵臓に被覆された肝腫瘍を認め,破裂した肝細胞癌が自然止血されている状態であった.循環動態・バイタルサインも安定していた為,腹腔鏡下手術を続行した.肝細胞癌破裂自体,腹膜播種が危惧される予後不良因子であるが,腫瘍表面を覆っていた小網と膵前被膜の一部を腫瘍側に付け,破裂部を露出させず,また腫瘍自体も極力鉗子などで圧排しないよう注意しながら手術を完遂した.手術時間は331分,出血量は腫瘍からすでに出血していた量を含めて50mlであった.術後経過は良好で,第11病日に軽快退院した.術後10ヵ月経過した現在,画像上再発を認めず,AFP, PIVKA-Ⅱともに基準値内に低下しているが,本症例は破裂を伴うStage Ⅳaの肝細胞癌のため,厳重follow up中である. 肝細胞癌破裂に対する腹腔鏡下肝切除術の報告は文献上,殆どみられない.出血が完全に制御されており,循環動態・バイタルサインが安定している症例では,破裂症例といえども腫瘍の圧迫や破裂部の露出などがないよう細心の注意を加えながら手術を行えば,腹腔鏡下肝切除術も可能と思われる.

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© 2013 山口大学医学会
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