日本列島太平洋岸における完新世 (後氷期) の照葉樹林の発達史について, 各地で報告されている花粉分析結果を検討し, 主に黒潮との関連で考察した. 房総半島以南の太平洋沿岸地域では, 完新世の初期から照葉樹林が成立し, なかでもシイ林の発達が顕著にみられた. とくに伊豆半島や房総半島南端で照葉樹林の発達が良く, その成立, 拡大時期も早かった. これらの地域は早くから黒潮の影響を受け, 冬季温暖かつ湿潤であるといった海洋気候が照葉樹林の発達をより促したと考えられる. 照葉樹林は, 急激な温暖化とともに九州南端から日本列島を北上したが, 一方で黒潮の影響を受ける沿海暖地からもその分布を拡大していったことが推定された. また太平洋沿岸地域における照葉樹林は, 完新世初期に3回の拡大期をもって発達した.