1988 年 18 巻 2 号 p. 153-157
本研究は未熟心筋を対象としたsingle-dose crystalloid cardioplegiaの心筋浮腫抑制効果を検討することを目的とした.50頭の生後3日~3週の新生犬を対象として,A群:心筋温30℃保存,B群:局所冷却単独(10℃以下),C群:局所冷却併用cardioplegia (St. Thomas Hospital液:4℃, pH 7.8, 350mOsm/l)使用,D群:局所冷却併用同酸素加(pO2: 500mmHg以上)cardioplegia使用の4群に分け,おのおの大動脈遮断前,遮断後5, 30, 60, 90, 120, 150, 180分の時点で重量乾燥法により心筋水分量(%)を測定した.心筋水分量は各群ともほぼ直線的に増加したが,A,B群では遮断後段階的に増加したのに対し,C,D群では遮断後5分で急激に増加するが以後は緩徐な増加傾向を示した.群間の心筋水分量の比較では,A,B群間,C,D群間に全時点で差はみられなかった.遮断後5分からの増加量で比較すると,90分でB群はC群,D群より有意に(p<0.01)高値で180分でA群はC群よりまたB群はC群,D群より有意に(おのおのp<0.05, p<0.01, p<0.05)高値であった.以上によりcardioplegia注入により冠血管拡張状態となり血管内水分量が多くなるために見掛け上心筋水分量が高値になるものの大動脈遮断以後の心筋浮腫進行が抑制されたものと考えられた.局所冷却単独は心筋温30℃保存のものと差がなかった.酸素加cardioplegiaの心筋水分量への影響は明らかでなかった.