1989 年 19 巻 1 号 p. 45-52
組織培養技術の進歩にともなって,高等動物,なかんずくヒトの血管内皮細胞の培養研究がさかんにおこなわれている.一方,血管外科領域では小口径人工血管の開存成績が不良で,自家静脈よりすぐれた素材は未だに見いだされていない.ここに,生体本来の抗血栓性を担う血管内皮細胞を人工の素材にむすびつけようとする,endothelial seeding,ハイブリッド人工血管の考えが生まれてきた.本論文では,われわれのおこなったイヌの静脈内皮細胞の培養実験,回転法を用いたin vitroにおける小口径人工血管への植付け,および動物実験と回収標本の組織所見について述べた.実験の結果,ハイブリッド人工血管の良好な内皮化と開存成績が明らかになった.臨床応用に向けてはなお問題が多いが,血管内皮細胞培養研究はバイオテクノロジーを心臓血管外科へ医療応用する可能性を示すものとして興味深いと考える.