日本心臓血管外科学会雑誌
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術後,馬尾神経の虚血性損傷を合併した破裂性腹部大動脈瘤症例
上田 正生山田 知行家村 順三安藤 史隆皐 弘志
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1990 年 20 巻 1 号 p. 11-16

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抄録

破裂性腹部大動脈瘤の術後に馬尾神経の虚血性損傷に基づく下肢不全麻痺および全知覚脱失をきたしたきわめてまれな症例を経験した.症例は61歳の男性.腹部大動脈分岐部直上に直径6cmの嚢状瘤を認め,大動脈-両外腸骨動脈間でY字人工血管置換術が行われた.L3~L5の腰動脈は瘤内から閉鎖し,下腸間膜動脈は結紮処理した.両総腸骨動脈の著明な硬化性変化および癒着のため,大動脈遮断が3時間におよんだ.術後の全身状態は良好であったが,左膝関節以下と右足関節以下の全知覚脱失が出現し,両下肢の弛緩性不全麻痺も認めた.左下肢の深部腱反射は消失し,Lasègue徴候陽性であった.血管造影では左総・内腸骨動脈が完全閉塞していた.患者は理学療法で歩行可能となったが,左下腿にパレステジーが残存した.臨床症状,筋電図,CT, MRIなどから馬尾神経の虚血性損傷と診断され,腰動脈閉鎖,長時間大動脈遮断,左総・内腸骨動脈閉塞がその発生要因と考えられた.

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