1994 年 23 巻 4 号 p. 270-275
腎機能障害を有する切除不能腹部大動脈瘤症例に対して, thromboexclusion 法を施行して救命したので報告する. 症例は慢性腎不全の既往を持つ68歳男性で, 腹部大動脈瘤 (AAA) は, 径10cmの嚢状瘤を合併し, 椎体を侵食していた. 瘤切除には腎動脈上大動脈遮断が必須であり, 放置も切除もともに選択し難い症例であった. 手術は8mm径, knitted Dacron T-graft を用いて左腋窩動脈-両側大腿動脈バイパスを作成した後, 総腸骨動脈を両側とも永久遮断した. 術後瘤内血栓化は末梢側より急速に進行し, 術後12日目に腎動脈直下で停止し, 腎血流は保持され, 腎機能は術前よりもむしろ改善した. 術後5日目に突然, 著明な線溶亢進に基づく術創出血をきたし, その診断にはα2PI, PICなどの線溶系指標が有用であり, 治療には tranexam acid および aprotinin が奏功した. 本法は手術操作は比較的低侵襲である反面, 術後凝固線溶系が急速に亢進し, その管理は決して容易とはいえない.