1997 年 26 巻 4 号 p. 268-270
症例は胸部圧迫感を主訴とする43歳. 20年前に大動脈炎症候群の診断を受け, 2年前に Sellers III度のARにて大動脈弁置換術を受けた. 術後炎症は沈静化していたが, 最近になり胸部圧迫感を自覚し心臓エコー検査にて人工弁周囲からの逆流を, 心臓カテーテル心血管造影にて心収縮周期に人工弁の振り子様運動を認めた. 人工弁逸脱と診断し緊急手術を行った. 人工弁は右-無冠動脈尖に全周の約1/3に付着しているのみであった. 大動脈炎症候群のため大動脈内壁が脆弱であると考え, 縫合糸を外壁から通針して人工弁を縫着した. 大動脈炎症候群に対する人工弁置換術後においては, 人工弁逸脱を予防するために炎症の慎重なコントロールが重要であり, 仮に逸脱が生じ再手術が余儀なくされたときには, 弁縫着には慎重な手技を要する.