Stanford A型大動脈解離の手術において, 大腿動脈送血後に偽腔灌流をきたした稀な症例を経験した. 本例では entry が下行大動脈に存在し, 上行大動脈まで逆行性に解離が及んでいたが, 大腿動脈送血開始後, 体外循環流量の増加に伴い, 偽腔拡大・真腔圧迫をきたしている様子が, 経食道エコーで観察された. 大腿動脈送血を中止して自己心拍出量を維持し, 次いで左室心尖部より送血管を上行大動脈内の真腔に挿入して送血することで対処できた. 大動脈解離の緊急手術では, 術中経食道エコーによる血流の確認が必須であるとともに, 大腿動脈送血で偽腔灌流となった場合, 緊急処置として左室心尖部から上行大動脈への送血管留置による送血が有効と考えられた.