1999 年 28 巻 2 号 p. 105-108
症例は71歳, 男性である. 大動脈弁輪拡張症 (AAE) による大動脈弁閉鎖不全症 (AR) に対し, 大動脈弁置換術を施行した. しかし4年後に, 拡大した Valsalva 洞のため右冠状動脈の過伸展および狭窄を来して急性心筋梗塞を発症し, 大動脈基部置換術を必要とした. AAEにおける胸痛はARに起因し, Valsalva 洞の拡大による冠状動脈病変は稀である. それは, 瘤径が大きい洋梨状拡大型では上行大動脈が拡大するため, 冠状動脈の過伸展を来さず, また Valsalva 洞拡大型では瘤径が比較的小さいため, 冠状動脈の過伸展を来すことは少ないことによる. 自験例では Valsalva 洞の最大径が, 4年間で6cmから8.5cmまで急速に拡大したことが, 右冠状動脈の過伸展を生じた原因と考えられる. この様な経過をたどることは稀だが, AAEに対しては大動脈基部置換術を基本術式とすべきであると痛感した.