日本心臓血管外科学会雑誌
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腹部大動脈瘤手術における術後腸管虚血予防についての検討
矢野 浩巳石丸 新小櫃 由樹生
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1999 年 28 巻 3 号 p. 141-145

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抄録

待機手術を行った腎動脈下腹部大動脈瘤50例を対象として, その手術中に腹部大動脈の遮断前後で下腸間膜動脈 (IMA) の断端圧測定を行い, 各動脈支配領域の血行動態変化を解析した. 大動脈血流の遮断前におけるIMA断端圧体血圧比は, その遮断後に有意に減少した (p<0.0001). 減少率は平均約11%であり, 血圧比からみてIMAへの側副血行路は約89%を上腸間膜動脈 (SMA) が占めており, その他は内腸骨動脈 (IIA) を中心とした骨盤領域からの血行路と考えられた. IMA断端圧体血圧比の減少率がもっとも大きかった例で術後虚血性イレウスを生じた. この例ではSMAからの側副血行路が乏しく, IIAの温存も不十分であったためと思われた. このことよりIMA断端圧を大動脈遮断前後に測定することが腸管虚血予知の指標になりえると考えられた. また, IMAを再建せずに腸管虚血を起こさなかった38例の検討では, IMA断端圧体血圧比で0.6前後が腸管虚血予防のための安全域であり, この値を保つようにIMAの再建, IIAの温存を行うべきであると考えられた.

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