1999 年 28 巻 5 号 p. 306-311
右鎖骨下動脈起始異常を合併した弓部大動脈瘤に対し, 人工血管置換術を施行した3例の術式, 術後管理に対する問題点について検討した. 症例は心筋梗塞を合併した急性A型大動脈解離, 遠位弓部大動脈瘤破裂, 右鎖骨下動脈瘤を伴った遠位弓部大動脈瘤であった. 2例は緊急手術で, 1例は待機手術であった. 全例, 胸骨正中切開, 咽頭温18度の超低体温循環停止下逆行性脳循環を用いた. 再建術式は上行弓部置換, 弓部3分枝再建, エレファントトランク留置1例, 遠位弓部置換, および左右鎖骨下動脈再建2例であった. 右鎖骨下動脈の再建は1例で同経路で, 他方では上行大動脈に右鎖骨下動脈を再建した. 手術死亡はなかったが, 2例が病院死亡した. 1例は術後肺合併症, 気管切開カニューラの事故により死亡. 他の1例は小脳梗塞, 食道穿孔を合併し死亡した. 食道穿孔は胃管と右鎖骨下動脈瘤による内外からの圧迫がおもな原因と考えられた. 右鎖骨下動脈起始異常症は稀な疾患であり, 手術を必要とした弓部大動脈瘤との合併例の報告は少ないが, 弓部大動脈置換のさい, とくに緊急手術において右鎖骨下動脈起始異常の可能性を考えておく必要がある.