2000 年 29 巻 2 号 p. 91-93
大動脈基部・弓部大動脈再建時に, 基部再建後常温で冠灌流を再開し, 心拍動下に弓部置換を行った体外循環法を報告する. 症例は, 44歳, 女性, Marfan 症候群. 突然の背部痛をきたし近医より紹介入院となった. 血管造影では, 左鎖骨下動脈末梢に entry を有する腸骨動脈までの解離があり, 大動脈基部は6cmと拡大し, III度の大動脈弁逆流がみられた. 基部再建後, 人工血管より心筋保護回路を用い37℃の血液 (300ml/min) にて冠灌流を開始した. 心拍動は自然に再開した. この後, 心筋は37℃を維持し, 体循環は, 23℃まで冷却し elephant trunk を作製した後, 弓部の3分枝を順次再建した. 冠血流遮断時間133分であった. 超低体温および心停止時間の長くなる大動脈基部・弓部の一期的再建時には, できるだけ早い時期の常温血液での冠灌流開始は, 有効であると考えられる.