2003 年 32 巻 2 号 p. 59-63
心臓後下面領域への冠血行再建を容易にするために右心バイパス(right heart bypass, RHB)を用いた心拍動下のCABGを1999年11月より導入した.その有用性や周術期の問題点について明らかにするため,RHB使用下に行ったCABG 77例(RHB群)と同時期のOPCAB症例(OPCAB群)30例との比較検討を行った.両群の患者背景に有意差を認めず,入院死亡は認めなかった.バイパス枝数はRHB群2.4±0.6本,OPCAB群2.0±0.2本であった(p=0.002).心臓脱転前後のSvO2の変動は横隔膜面領域,後側面領域ともRHB群で有意差をもって良好な値を保つことができた.肺動脈圧の変動は有意差は認められなかったものの,RHB群でその上昇度が少ない傾向にあった.術中水分出納はRHB群が有意に高値を示し,術後体温はRHB群で低い傾向にあった.しかし出血量,輸血量に有意差はなく,その後の呼吸機能(Aa-DO2,人工呼吸時間),ICU滞在時間,術後在院期間にも影響を与えなかった.RHBを使用することにより良好な視野が得られ,後下面領域への血行再建率が上昇した.関連する合併症を認めず,本法は心拍動下の多枝CABGを容易とし血行再建率を上げる有効な補助手段であると考えられた.