2004 年 33 巻 3 号 p. 189-192
Stented elephant trunk法を併用した全弓部・下行大動脈置換術は従来術式に比し脊髄障害発生頻度が高く,その原因の一つに粥腫による脊髄動脈塞栓が示唆されている.Stented elephant trunk法を併用した全弓部大動脈置換術で一過性の歩行障害をきたした症例を報告する.症例は69歳,男性,腹部大動脈瘤Yグラフト置換の既往があり,弓部および近位下行大動脈瘤,Crawford II型胸腹部大動脈瘤に対し,stented elephant trunk法を併用した全弓部・下行大動脈置換術を施行し術後4日目に下肢脱力が出現した.術前CTで瘤の壁在血栓・粥腫を認め,遊離粥腫による肋間動脈塞栓・下位脊髄障害が疑われた.本術式の適用症例の多くは粥状動脈硬化病変を有し,術式選択にあたりstent graft挿入操作と留置に伴う肋間動脈や主要分枝動脈塞栓などの合併症を十分考慮することが肝要と思われる.