2004 年 33 巻 1 号 p. 68-71
症例は76歳,男性.突然の右下肢痛を主訴に当院を受診した.既往歴には膀胱癌があり,手術適応とされていたが本人が手術を拒否したため以後未治療であった.血管エコーにて右下肢急性動脈塞栓症と診断され血栓除去術を行った.術後第2病日に突然意識消失をきたした.心エコー検査を行ったところ左室流出路に可動性を有する4.1×2.5cmの腫瘍を認めた.緊急で人工心肺使用下に腫瘍摘出術を行った.術直後の経過は良好であったが,開心術後第14病日に突然左下肢急性動脈塞栓症を発症し血栓除去術を施行した.心エコー検査では,再度左室内腫瘍の増大を認めた.その後全身状態の急激な悪化をきたし,肺炎を契機に開心術後第23病日に永眠された.病理組織所見では膀胱癌の転移の可能性が示唆され,また,剖検所見では心臓内を含め癌の全身転移が認められた.本症例は膀胱癌の心臓転移というきわめて希な症例であった.