日本心臓血管外科学会雑誌
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腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療の初期および中期成績
従来手術との比較検討
井畔 能文山本 裕之荒田 憲一小林 彰上野 正裕峠 幸志末廣 章一坂田 隆造
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2005 年 34 巻 6 号 p. 395-400

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抄録

1999年1月から2004年3月までの待機的腹部大動脈瘤(AAA)手術症例131例を対象とし,ステントグラフト(SG)内挿術24例(EVAR群)と従来手術107例(OP群)に分け,比較検討した.平均年齢,男女比,術前瘤径はEVAR群74.1±7.8歳,20/4,50.4±6.6mm,OP群71.7±10.5歳,89/18,54.6±11.1mmと有意差はなく,術前危険因子として閉塞性呼吸障害がEVAR群に有意に多く(p<0.04),開腹歴がEVAR群で有意に多かった(p<0.001).SGは全例自作で直型およびtaper型を使用しbifurcated typeは用いなかった.Taper型の場合は反対側の総腸骨動脈に閉塞用SGを用い,F-F bypassを置いた.初期成績:手術時間(EVAR群131±53min,OP群250±76min),輸血量(EVAR群0ml,OP群238±345ml)で有意にEVAR群が短く,少なかった(p<0.01).EVAR群での完全な瘤血栓化は21例(87.5%)に認めた.合併症はEVAR群でSG閉塞と創感染を1例ずつ認め,OP群では麻痺性イレウス6例,呼吸不全1例,虚血性腸炎1例,出血再開腹1例を認めた.病院死亡はEVAR群ではshower embolieによる腸管虚血で1例(4.1%)を失い,OP群では術後誤嚥性肺炎で1例(0.9%)を失った.遠隔成績:生存率はEVAR群1年88.0±6.5%,2年88.0±6.5%,3年80.6±9.2%,OP群1年99.0±0.9%,2年94.1±2.6%,3年87.7±3.9%と有意差はなかった.EVAR群において遠隔期に瘤拡大によるsurgical conversion4例,感染による瘤破裂1例,aorto-enteric fitula1例を認め,手術関連合併症回避率はEVAR群1年81.3±8.5%,2年61.4±11.9%,3年47.8±12.6%であった.OP群では手術関連合併症はなく,有意にOP群で少なかった.現段階でのAAAに対するEVARは手術早期成績は従来手術と同等に良好であった.しかし,遠隔期の合併症が多く長期的有用性には問題が残ると考えられた.

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