2006 年 35 巻 3 号 p. 160-163
症例は52歳,男性.1987年に感染性心内膜炎に対し大動脈弁置換術を施行した.2004年5月に胸部レントゲン写真で上縦隔の拡大を認め,造影CTで前回手術時に送血管を挿入したと思われる上行大動脈の部位に嚢状動脈瘤を認めた.大動脈瘤は胸骨に接していたため,手術は大腿動脈送血・大腿静脈脱血の体外循環を開始したのち,胸骨を正中切開した.上行大動脈に直径60mmの仮性動脈瘤を認め,瘤の頂点にはフェルトの遺残がみられた.超低体温下循環停止として瘤を切開し,瘤の大動脈への開口部をパッチ閉鎖のうえ,瘤壁を縫縮するように閉鎖した.術後はとくに問題なく経過した.病理所見では,瘤の頂点部に認められたフェルトは,その中心部において血管壁はきわめて菲薄化していたためにフェルトが瘤壁のほぼ全層を占め,血管内腔に露出しているようにみえる部分も存在した.経過,手術所見,病理所見で非感染性の仮性動脈瘤であると診断された.術後約17年後という遠隔期に発生し,手術適応となった仮性動脈瘤の症例であった.