日本心臓血管外科学会雑誌
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脈波伝播速度(PWV)による冠動脈バイパス手術症例における手術リスク評価
杉本 努山本 和男島田 晃治葛 仁猛飯田 泰功三島 健人浅見 冬樹吉井 新平春谷 重孝
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2007 年 36 巻 3 号 p. 117-120

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抄録

脈波伝播速度(PWV: pulse wave velocity)は動脈硬化症の程度を反映することから術前PWV値の検討により虚血性心疾患重症度および周術期合併症の推定ができる可能性がある.冠動脈バイパス(CABG)症例を対象に,PWVと虚血性心疾患の重症度および周術期合併症との関連を検討した.2003年1月から2004年12月末までの単独CABG症例177例中,術前PWVを測定した42例を対象とした.年齢は45~84歳(平均66.7歳)で,男性33例,女性9例であった.各症例のbaPWV値と同年齢層の平均値との比(baPWV比)を算出し,臨床事項とPWV比との関連について検討した.なお手術術式は,OPCAB28例,conventional CABG 8例,on pump beating CABG 6例であり,バイパス吻合数は3.1±1.1本,手術時間322±101分であった.在院死亡は致死性不整脈の1例(2.4%)であった.平均baPWV値は1,820.7±459.8cm/sでPWV値は同年齢層baPWV値と比較して高値を示した.術前併存症の有無では,脳梗塞などの脳血管障害を有していた群でbaPWV比1.62±0.49と有意に高値であった(p<0.05).一方,冠動脈の有病枝数,バイパス吻合数,左室駆出率,陳旧性心筋梗塞合併などで重症度別にbaPWV比を検討したが,有意差は認めなかった.周術期合併症の有無でbaPWV比を比較すると合併症群1.38±0.33,非合併症群1.16±0.22であり,合併症群で有意にbaPWV比が高値であった(p<0.05).CABG手術症例においてPWV値は同年齢層baPWV値と比較して高値を示した.baPWV値は,冠動脈病変の重症度との相関はなかったが,周術期の合併症例では高値を示した.術前のPWV値の検討により,周術期の合併症を含めた重症度の判定が可能となることが示唆された.

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