2007 年 36 巻 1 号 p. 15-18
症例は62歳,男性.肝硬変および3年前に肝細胞癌に対して肝左葉外側切除術施行の既往があった.突然の胸背部痛で発症した急性大動脈解離のため救急紹介された.来院時,意識障害を伴うショック状態であった.CTにより,Stanford A型の急性大動脈解離で,大動脈弁閉鎖不全症,心嚢液貯留を認めた.肝硬変はchild-Pugh分類上class Bと推定され,手術は非常に大きなリスクを伴うと考えられたが,救命のための選択の余地はなく,緊急手術を施行した.右腋窩動脈送血・右房脱血で人工心肺を確立し,Freestyle valve23mmを用いて大動脈基部置換術を行った.その後,低体温下循環停止および選択的脳灌流を用いて,上行大動脈置換術を行った(Hemashield 28mm,1分枝付き).人工心肺からの離脱は容易であった.術後3日目にICUを退室したが,同5日目に心タンポナーデを合併し,心嚢ドレナージ術を要した.発症時期不明の脳梗塞も発見されたが,日常生活はほぼ普通に行えるようになり,独歩で転院された.