日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
無脾症候群の成績改善とその治療方針
中田 朋宏猪飼 秋夫藤本 欣史廣瀬 圭一太田 教隆登坂 有子井出 雄二郎坂本 喜三郎
著者情報
ジャーナル フリー

2007 年 36 巻 5 号 p. 237-244

詳細
抄録

無脾症候群は多種多様な心奇形を合併し,重症度の高い疾患群である.今回,1987~2006年10月末の過去約20年間に当院で初回より手術介入を行った無脾症候群連続71例(1987~1996年:前期群34例,1997~2006年10月末:後期群37例)を検討した.前期群に有意に肺動脈弁狭窄(p=0.010)が多く,後期群で新生児(p=0.010),体重3kg未満例(p=0.037),肺動脈弁閉鎖(p=0.013)が多かった.全例Fontan手術対象で,二心室治療対象例はいなかった.前期群の累積生存率は1年52.9%,5年32.4%と不良であり,原因として,1)右心バイパス到達までの期間が長く,房室弁逆流や長期のチアノーゼによる側副血行路増生などの問題も絡んで,容量負荷による心機能低下を起こしたこと,また,2)肺動脈縮窄を中心とする肺動脈系の問題,総肺静脈還流異常症(TAPVC)を中心とする肺静脈系の問題が絡み合って十分な肺区域の確保が困難であったことが考えられた.そこで後期群で手術方針を変更し,容量負荷を回避して心機能を保護するため,1)早期の右心バイパス手術到達,2)積極的な房室弁形成を行い,また,有効肺区域を可能なかぎり確保するため,3)中心肺動脈領域での肺動脈形成を伴う肺血流路確保(central pulmonary artery strategy),4)TAPVC修復時の吻合手技の改良を行った.また,それらにもかかわらず肺血流が左右不均衡でFontan手術到達困難とされた症例には,5)新しい中間手術:intrapulmonary-artery septationを導入した.結果としては,後期群の累積生存率は1年66.8%,5年53.1%と,前期群に比して改善傾向を認めた(p=0.102).生存における術前りスク因子の検討で,単変量解析で有意であったのは,前期群では,新生児(p=0.036),心外型TAPVC(p=0.049),術前肺静脈狭窄(PVO)(p=0.001),後期群ではTAPVC IV型(p=0.001)であり,多変量解析で有意であったのは,前期群では術前PVO(p=0.038),後期群ではTAPVC IV型(p=0.007)であった.上記の心機能保護と有効肺区域の確保を重要視した治療方針の変更により,より重症度の高い後期群においても成績が改善し,新生児や心外型TAPVC,術前PVOが有意リスクから外れ,TAPVC IV型は今後の課題となった.

著者関連情報
© 特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
次の記事
feedback
Top