日本心臓血管外科学会雑誌
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気管切開術後の気管腕頭動脈瘻の2救命例
予防,止血,術式についての検討
吉田 誉江川 善康川人 智久
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2007 年 36 巻 5 号 p. 265-268

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抄録

気管腕頭動脈瘻は気管切開術後の希な合併症であるが,発症すると致命的である.われわれは2例を経験し比較的長期の生存が得られたが,一時止血方法や手術方法に若干の相違があり,利点や反省点につき検討した.症例1は,長めの気管切開カニューレと経口気管チューブを併用し,さらに気管切開孔周囲を圧迫して一時止血を得たのち,右総腸骨動脈-右腋窩動脈バイパス作製後に胸骨正中切開から腕頭動脈離断と気管瘻孔の直接閉鎖を行った.症例2は,長めの気管切開カニューレを気管切開孔から最大限押し込みカフを過膨張させて一時止血を得たが,手術室搬入時にカフがずれて再度大量出血をきたした.手術は胸骨正中切開からePTFEグラフトを用いた解剖学的腕頭動脈再建と自己心膜パッチによる気管瘻孔閉鎖を行った.気管腕頭動脈瘻の治療でもっとも重要な点は予防である.気管切開後に少量の新鮮血出血が持続するなど先行症状を認めた場合には,大量出血にいたる前に気管支鏡やCTなどで早期に発見し手術治療を考慮すべきと思われる.しかし,大量出血をきたした場合には,一時止血と気道の維持が問題となる.われわれの経験では,症例1では良好な一時止血が得られたものの症例2ではカニューレの長さが不足して止血が不確実であった.手術方法としては,術野の汚染がない場合には解剖学的な腕頭動脈への血行再建と気管痩孔の閉鎖が理想的と思われるが,大きな痩孔の存在など術野の汚染が考えられる場合には非解剖学的血行再建を選択せざるを得ない場合もあり,感染予防や遠隔期予後の点からも早期の発見,治療が重要と考えられた.

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