2007 年 36 巻 1 号 p. 37-40
高齢者の弓部大動脈瘤破裂に対し弓部全置換術を施行し,救命しえた1例を経験したので報告する.症例は92歳の女性で高血圧を認めていたが,日常生活はとくに問題なく送れていた.喀血を主訴に他院を受診したところ,胸部X線写真で左第1弓の突出を認めたため,精査加療目的で当院内科を紹介され入院となった.CT検査で遠位弓部に最大径43mmの嚢状瘤を認めた.喀血はこの動脈瘤から肺内に出血したことが原因と考えられた.本人および家族が積極的治療を強く希望し,手術目的で当科転科となった.手術待機中に大量の喀血を認め,呼吸不全となった.気管挿管,人工呼吸器管理を行い,いったん止血を得られた.2日後に人工呼吸器管理のまま手術室へ入室したが,再び大量の喀血をきたし,換気不能となった.長時間の低酸素状態のまま緊急手術を開始し,弓部全置換術を施行した.術後,MRSA肺炎を発症し敗血症性ショックをきたしたが,術後24病日に人工呼吸器を離脱した.リハビリを継続し,術後86病日に独歩退院となった.脳血管障害は認めなかった.弓部全置換術のように侵襲が大きい手術を高齢者に対して適応する場合,慎重にならざるを得ないが,一概に年齢のみで手術適応を制限することはできない.