2001 年 32 巻 2 号 p. 107-111
1999年度に採用された11名の1年目研修医全員を対象として, 医師免許取得直後の5月とその3か月後に心臓病患者シミュレーター『イチロー』を用いた2回の診察実習を行った. それぞれの到達目標を, 1回目の実習では順序立てた身体診察法の習得と正常所見の理解, 2回目の実習では異常所見の検出とした. 1回目の実習1か月後の時点では,「内頸静脈拡張の有無」「頸動脈触診による収縮・拡張期の判定」「S2の呼吸性分裂の有無」「収縮期雑音の最強点および放散」については全員がルーチン診察のチェック項目としていた. 2回目の実習前後における心疾患に対する聴診能力では, ほとんどの研修医が上達したと自己評価した. 初期研修開始1年を経過した時点では, 内頸静脈と頸動脈拍動の分析はなお不十分としたが, 順序立てた診察法の習慣化, ギャロップ音と3/6度以上の心雑音の検出に関してはほぼ可能であるとし, 大動脈弁疾患および僧帽弁疾患の存在診断についても全員が可能であると自己評価した. 到達目標を明確に設定し, 短期間に繰り返し行った『イチロー』を用いた診察実習は, 研修医に順序立てた診察を習慣づけ, 異常心音・心雑音を注目する動機づけとなり, その診察能力を向上させた.